事実婚・内縁と遺言

 事実婚や内縁の場合に、長年事実上の夫婦として暮らしてきても、また、たとえ公正証書において事実上の夫婦であるという契約を結んでも、不可能なことがあります。配偶者相続権がないということと、お二人の間に生まれたお子さんは嫡出子ではないということです。

 このうち、配偶者相続権がないというデメリットについては、遺言を作成することで、かなりの部分をカヴァーできます。事実婚や内縁の場合には、パートナーの生活を考えると、遺言を作成しておくということは必須のことと思えます。

 この点を、もう少し詳しくご説明してみましょう。
 例えば、A男さんとB子さんが、事実上の夫婦として、30年間一緒に暮らし、A男さんには法律上の婚姻関係もなく、お子さんもいなかったとしましょう。
 このような状態で、A男さんが亡くなったときの相続人は、A男さんのご両親であったり、ご両親が亡くなっていれば、ご兄弟であったりします。つまり、相続人は、戸籍によって形式的に決められるのです。
 ですから、入籍していないB子さんが相続人となることはないのです。

 長年、事実上のご夫婦として暮らしてくれば、B子さんの生活はご心配なはずです。B子さんに相続権がない以上は、遺言を作成して、遺贈として、まとまった財産を残して差し上げるしかないことになります。

 ですから、事実婚である、内縁であるという場合には、パートナーのためにお互いが遺言を作り、遺贈という形で、財産を渡して差し上げるようにしておくことが必要になるのです。

 そして、遺言は作るだけでは十分ではなく、その内容が実現されなけば意味がないということです。長年一緒に暮らしてきても、籍が入っていない以上、相続では他人となります。その他人に、多額の銀行預金が遺贈されるとしたら、すんなりと実現されるとは限りません。そこで、遺言は、信用性の高い公文書である公正証書で作成し、その内容を実現するため、相続に詳しい遺言の執行者を定めておいてください。

 また、法律上の妻やお子さんがいる場合には、その方たちは遺留分という最低限の相続分を持っています。この遺留分を侵害すると、後でトラブルになる可能性が十分にあります。遺留分を具体的に把握し、事実上の配偶者を守って差し上げる。そのような遺言を作成してあげてください。